【米国株式週間レビュー:2026年8月31日~9月4日】AI株に資金は戻った。しかし「金利の壁」はまだ消えない

投資

概要

2026年8月31日~9月4日の米国株式市場は、一見するとほとんど動いていない一週間でした。
S&P500は週間で+0.1%、NASDAQ総合指数は+0.4%、NYダウは-0.3%、Russell2000も+0.1%。主要指数だけを見れば、まさに「横這い」です。

しかし市場内部では、かなり激しい資金移動が起きています。

中東情勢の再悪化で原油価格が再び90ドル台まで上昇し、米国では強い雇用統計を受けて9月利上げ観測が復活。その一方で、これまで調整していたNVIDIAやメモリー関連を中心に半導体株へ資金が戻りました。

今週は、「AIは終わったのか」という議論から、「AIの中で何を買うのか」という段階へ市場が進み始めた週だったように思います。

S&P500は7,718.60で週を終えました。

数字を見ると非常に静かな一週間ですが、金曜日だけを見ると景色が違います。

8月雇用統計が予想を大幅に上回ったことでS&P500は0.4%、NYダウは0.5%下落しました。

ところがSOX指数は逆に約3%上昇しました。

つまり今週の半導体株上昇は、「金利が下がったからグロース株が買われた」という単純なものではありません。

金利上昇という逆風があっても半導体を買いたい投資家が戻ってきた。

これは少し意味が違います。

雇用は強かった――市場の焦点はいよいよインフレへ

8月の非農業部門雇用者数は前月比16.2万人増。市場予想の約5.6万人を大きく上回り、6月・7月分も合計5.5万人上方修正されました。失業率も4.1%で横ばいでした。

労働市場が急速に悪化するシナリオはかなり後退しました。

これによってFRBが考えなければならない問題は一層明確になります。

「雇用を守るために金融政策を緩める必要があるか」
ではなく、
「インフレを抑えるために追加利上げが必要か」
です。

雇用統計発表後、9月FOMCで25bp利上げする確率は約49%から58%程度まで上昇。一時は60%を超えました。

2年国債利回りも4.37%まで上昇しています。

Waller理事の一言で市場は揺れる

その前日の木曜日には、FRBのChristopher Waller理事が、
「インフレ低下にもう少し時間を与えるべきだ」
という趣旨の発言をしました。

今後のデータでインフレ低下が確認できれば、9月は金利据え置きを支持する意向を示したため、市場の利上げ織り込みは一時大きく低下。株価は上昇し、債券利回りは低下しました。

ところが翌日の強い雇用統計で再び利上げ確率が上昇。

つまり現在のFRBは、
「利上げする」
とも、
「据え置く」
とも決め打ちできません。

9月11日に発表されるCPIが、9月15~16日のFOMCをほぼ左右する状況になっています。

これは株式市場にとって非常に居心地の悪い環境です。

企業業績が良くても金利上昇でPERが下がる。

景気指標が弱ければ今度は企業利益を心配する。

したがって、当面「横這いあるいはボックス的な相場が続く」という見方は、現在のところかなり妥当だと思います。

中東情勢――再び原油が90ドル台へ

今週、中東情勢は再び悪化しました。

米国とイランの軍事衝突が再び激しくなり、一時回復していたホルムズ海峡の船舶通行量も減少しました。

木曜日にホルムズ海峡を通過した商品輸送船はわずか4隻。直近10日平均の15隻を大きく下回っています。

Brentは週間+7.6%の92.68ドル、WTIは約10%上昇して91.48ドルとなりました。

これは単なるエネルギー株の話ではありません。

原油上昇
→ ガソリン・輸送コスト上昇
→ インフレ
→ FRB追加利上げ
→ 長期金利上昇
という経路を通じて、再び株式バリュエーションに影響します。

したがって中東情勢は一時市場の関心から後退しましたが、今週再びマクロ要因へ戻ってきました。

AI株は本当に「復活」したのか

今週一番興味深かったのがここです。

金曜日、S&P500が下落したにもかかわらずSOX指数は約3%上昇。

SanDiskは週間+17%程度、Micronは約+9%、NVIDIAも約+6%。

これは単なるグロース株への資金回帰とは少し違います。

特に強かったのはメモリー、ストレージ、半導体製造装置などです。

その背景には明確なファンダメンタルズがあります。

MicronはHBMの生産量を年末までに月10万ウエハへ倍増する計画です。それでも現在のHBM需要は供給能力の2倍以上あるとされています。

HBMだけではありません。

AIデータセンターではGPUだけでなく、
HBM
DRAM
NAND
ネットワーク
ストレージ
電力
すべてが必要になります。

AI設備投資が続いている以上、GPU以外にも利益が広がる。

市場がこの「AIインフラ第2波」をもう一度評価し始めた可能性があります。

ただし「AI全面高」ではない

ここは重要です。

ソフトウェア株は今週むしろ弱く、ソフトウェアETFは週間で約4%下落しました。一方、半導体指数は+1.7%です。

つまり、
「AI関連株が全部復活した」
のではありません。

市場は、
現在、本当に利益を出しているAIインフラ企業
を選んでいます。

NVIDIAやMicronは、すでに売上・利益という数字を示している。

一方、AIを導入したから将来利益が増えるだろう、という段階の企業には市場は以前ほど甘くありません。

これはむしろ健全でしょう。
NVIDIAは「GPU会社」からさらに外へ出る
NVIDIA自身にも重要な動きがありました。
同社はAIモデル開発プラットフォームのHugging Faceを約129億ドルで買収すると発表しました。

これは非常に興味深い買収です。

NVIDIAはGPUを売るだけでなく、
CUDA
GPU
ネットワーク
クラウド
AIモデル
開発者コミュニティ
まで取り込もうとしています。

特にHugging FaceはオープンAIモデルの巨大な開発者コミュニティです。

これを押さえることで、NVIDIAは「AIを作る人」が何を使っているかを把握できるようになります。

半導体メーカーから、
AIエコシステム全体のプラットフォーム
へ進もうとしているわけです。

これはNVIDIA再評価の一つの理由になっていると思います。

AIファイナンス――さらに大きくなる

一方でAIファイナンスについては、懸念が弱くなったどころか、むしろ規模が大きくなっています。

AIクラウド企業Nscaleは約35億ドルのPre-IPO資金調達を進め、そのうち最大20億ドルをNVIDIAから調達する案が報じられています。

NscaleはAnthropicに対して6年間450億ドル規模のAIコンピュートを供給する契約を結んでいます。

つまり、
NVIDIA
→ AIクラウド
→ AIモデル企業
→ NVIDIA GPU購入
という資金循環構造は依然として存在します。

設備需要は本物に見える。

しかし、「誰が最終的な信用リスクを負うのか」は引き続き見る必要があります。

Physical AI――今週はかなり重要なニュース

Physical AIでも非常に興味深いニュースがありました。

ヒューマノイド企業FigureとNscaleが提携し、最大10万基のNVIDIA Vera Rubin GPUを利用する計画を発表しました。

当初のコンピュート契約だけで35億ドル、最終的には60億ドル超を想定しています。

これはPhysical AIについて一つ重要なことを示しています。

ロボットのボトルネックは、モーターや関節だけではありません。

学習データと計算能力です。

Figureはヒューマノイドから大量の実世界データを取得し、それをGPUで学習させ、NVIDIA Isaac Simでシミュレーションし、再びロボットへ戻す。

NVIDIAがいう
「Physical AI flywheel」
が、かなり具体的になってきました。

Physical AIはまだ株式市場の主要テーマではありません。

しかしAIインフラ投資の「次の需要源」として見る価値はますます高くなっています。

円はなぜ155円まで上昇したのか

今週、個人的に一番興味深かったのは円です。
ドル円は一時155.25円まで円高となり、週間では円が約2.2%上昇しました。

日銀の9月利上げ自体は、確かにかなり織り込まれていました。

ではなぜここまで動いたのか。

最大の理由は、利上げの「有無」ではなく、その後の利上げ経路が変わったからだと思います。
ベッセント米財務長官は植田日銀総裁との会談で、円安への対応として日銀に「decisive monetary steps」を求めました。

かなり異例の表現です。
市場は、9月25bp利上げだけではなく、その後も追加利上げが続く可能性を織り込み始めました

9月利上げ確率は一時97%近辺まで上昇しました。

円ショートの巻き戻しも大きい

もう一つ重要なのがポジションです。

長い間、
円で借りる

米国など高金利資産へ投資する
というキャリートレードが積み上がってきました。

ところが、
日銀利上げ

米国FRB据え置き可能性

日米当局が160円超を嫌っている

再介入リスク
となれば、円ショートを維持するリスクが急激に高まります。

さらに日本国債利回りが3%近辺まで上昇したことで、日本の機関投資家が外国債券から国内債券へ資金を戻す可能性も意識されています。

つまり今回の円高は、
「日銀が9月に利上げするから」
だけではありません。

日米金利差縮小+政策当局の意志+ポジション巻き戻し+日本への資金還流期待
が重なっています。

これは私も当初考えていたより、やや円高方向の材料が増えてきたと評価します。

ただし、日本の財政問題は何も改善していません。

来年度予算要求額は143.1兆円、国債費は36.64兆円。10年国債利回りも3%近辺です。

したがって、
「日銀利上げ=持続的円高」
と決めるのもまだ早い。

日本の財政政策への信認が戻るかどうかは、依然として長期的には非常に重要です。

Private Credit――静かだが、少しずつ数字が悪化

今週はPrivate Creditにも重要なデータがありました。

米国BDC44社を調べたReutersの分析では、融資資産の取得原価951.9億ドルに対して時価は928.8億ドルまで低下しました。

2025年末よりディスカウントが拡大しています。特にソフトウェア関連など、レバレッジの高い借り手で評価損が出ています。

さらにBlackstoneのBCREDではQ3に約43億ドルの償還請求がありました。

危機ではありません。
しかし、
高金利が長引けばPrivate Creditの「延命力」が試される
という状況は確実に進んでいます。

ここは引き続き監視していきたいと思います。

今後の見通し:今後1~4週間で見るポイント

第一は、9月11日の米国CPI。

ここが9月FOMCの利上げ・据え置きを左右する最大の材料です。

第二は原油。

WTIが90ドル台で定着すれば、それ自体がインフレ再加速要因になります。

第三はAI株の広がり。

NVIDIAやMicronだけでなく、AI設備投資によってクラウド、ネットワーク、ストレージ、電力、さらにはソフトウェアの利益まで拡大するか。

第四は日本。

日銀が利上げするかより、利上げ後にさらに上げるのかが為替市場の焦点になりつつあります。

そして引き続き、
長期金利+AIファイナンス+Physical AI
の三つは継続ウォッチです。

今週、市場から学ぶべきこと

今週の市場は、長期投資家にとって非常に示唆的でした。

強い雇用統計
→ 金利上昇
→ 株価下落
という普通ならグロース株に厳しい環境のなかで、半導体株は逆に上昇しました。

これはファンダメンタルズが強ければ、金利だけでは株価を説明できないことを示しています。
同時に、AIなら何でも買われた2023~2025年とは違います。

市場は今、
AIに投資している会社ではなく、AIから実際に利益を得ている会社
へ資金を移しています。

AIテーマは終わっていない。

むしろ、

「AI」という一つのテーマから、勝者と敗者を選ぶ普通の株式投資へ移行している
その過程にあると考えるのが、現在の市場を最も理解しやすいのではないでしょうか。

おまけ

 

後記

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