7月第2週の米国株市場は、半導体・AI関連株が再び市場の主役に戻る一方、NYダウや小型株が伸び悩む、やや二極化した展開となりました。
週間ではNASDAQが+1.74%、S&P500が+1.23%、NASDAQ100が約+1.69%上昇しました。一方、NYダウは▲0.50%、Russell2000は▲0.61%となっています。
前週には、半導体株から景気敏感株などへ資金が移る「セクターローテーション」が見られました。しかし今週は、SKハイニックスの米国上場やメモリー需要への強気な見通しを背景に、再びAI・半導体関連へ資金が集中しました。
したがって、今週の市場を一言で表すなら、
「市場全体への広がりが一服し、AI・メモリー株への再集中が起きた週」
ということになるでしょう。
主要指数の週間騰落率

S&P500とNASDAQは2週連続で上昇しましたが、NYダウは4週続いた上昇が途切れました。
また、金曜日にはS&P500とNASDAQ、NYダウがそろって上昇した一方、Russell2000は▲0.5%下落しました。
大型成長株が買われる一方、小型株が取り残されている点には注意が必要です。前週まで見られた相場の裾野の広がりが、少なくとも今週は止まったように見えます。
概要&マクロ

米国・イラン情勢に市場は「またか」の反応
米国とイランの暫定停戦は事実上停止し、両国による攻撃の応酬が再開されました。商船への攻撃も発生し、ホルムズ海峡を通過する船舶交通は再び減少しています。
しかし、株式市場の反応は意外なほど限定的でした。
水曜日にはトランプ大統領が停戦合意の終了を表明したことで、NYダウが約1.1%下落しましたが、NASDAQは半導体株の上昇に支えられてプラスを維持しました。その翌日には株式市場全体が反発しています。
市場は今回の衝突を、全面戦争への入口ではなく、交渉過程で繰り返される圧力の応酬と見ているようです。
ただし、原油市場は無反応ではありませんでした。週間ではWTI原油が約4%、ブレント原油が約5%上昇しています。
市場が戦争そのものには慣れても、原油の供給やホルムズ海峡の通航量が実際に減れば、価格は反応します。地政学リスクが完全に過去のものになったわけではありません。
経済指標は少ないが、FOMC議事要旨はややタカ派的
今週は雇用統計やCPIのような大きな経済指標の発表はありませんでした。
ISM非製造業景況指数は54.0と、引き続き景気拡大を示す50を上回りました。週間の新規失業保険申請件数も21.5万件と低水準で、雇用市場が急速に悪化している様子はありません。
一方、6月FOMCの議事要旨では、複数の参加者が利上げの必要性を検討していたことが明らかになりました。
インフレは運輸、航空運賃、石油化学、農業関連など幅広い分野に広がっており、FRB内では「インフレは自然に低下する」という見方と、「追加利上げが必要になる」という見方が併存しています。
市場では年末までの0.25%の利上げが徐々に中心シナリオになりつつあります。
米10年国債利回りも、前週末の約4.49%から約4.56%へ上昇しました。
それにもかかわらずNASDAQが上昇したことは、金利低下によって株価が押し上げられたのではなく、企業業績とAI需要への期待が金利上昇の逆風を上回ったことを意味します。
為替・原油・金
ドル円は週末に1ドル=161円台後半となり、週間では小幅なドル高・円安でした。
週末には日本政府が公的年金(GPIF)に国内資産への投資拡大を促すとの観測から円が買い戻されましたが、日米金利差と米国経済の強さを背景に、円安圧力は依然として残っています。
原油は中東情勢の悪化を受けて週間で上昇しました。ただし、原油価格は戦争初期の高値を大幅に下回っています。供給回復期待や世界需要の弱さが、地政学的な上昇圧力を抑えています。
金は安全資産として大きく買われることはなく、週間で小幅下落しました。金利上昇が、地政学リスクによる買い需要を相殺した格好です。
セクターの動き

情報技術が再び首位
今週は情報技術セクターが最も強く、エネルギー、コミュニケーション・サービスがそれに続きました。
半導体株、とりわけメモリー関連株の上昇が市場を支えました。木曜日にはフィラデルフィア半導体指数が約3.1%上昇しています。(週間では+2.7%)
一方、素材とヘルスケアは軟調でした。
グロース株がバリュー株を上回り、前週に見られた金融、工業、消費関連などへの幅広い資金移動は一服しました。
これは直ちに悪い兆候ではありません。AI関連企業の業績期待が再び高まった結果とも考えられます。
しかし、指数の上昇が少数の大型テクノロジー株に依存する形へ戻るなら、市場の安定性という点では少し割り引いて見る必要があります。
メモリー半導体に資金が戻る
今週の最大のテーマはメモリー半導体でした。
SKハイニックス(SKHY)が7月10日にNASDAQへ上場し、ADRは公開価格に対して初日約13%上昇しました。同社はAI向けGPUで使われるHBMの有力メーカーであり、NVIDIA向け供給でも中心的な役割を担っています。
マイクロンも米国内投資計画を2,500億ドル以上へ拡大すると発表し、木曜日に約4.5%上昇しました。半導体製造装置のアプライド・マテリアルズや、フラッシュメモリー関連のサンディスクも上昇しています。
資金は単に「半導体」へ戻ったのではなく、AIの処理能力を左右するメモリー帯域と記憶容量へ向かっています。
生成AIが学習中心から推論中心へ移り、AIエージェントや長文処理が普及するほど、HBMやDRAMへの需要は増加します。この構造的変化が、メモリー・スーパーサイクル論の根拠です。
「今回は違う」のか
半導体業界では、需要が強くなると各社が一斉に設備投資を増やし、数年後に供給過剰となって価格が崩れるというサイクルが何度も繰り返されてきました。
今回もマイクロン、SKハイニックス、サムスン電子が巨額の設備投資を計画しています。
そのため、「AI需要が永遠に増え続けるから今回は違う」と無条件に考えるのは危険です。“This time is different”は、投資の世界ではたいてい高くつく言葉です。
ただし、過去と違う部分もあります。
HBMは通常のDRAMより製造難易度が高く、歩留まり、積層技術、先端パッケージングが供給の制約になります。工場を建てれば直ちに供給量を増やせるわけではありません。
また、HBMの生産拡大は通常のDRAM生産能力を一部使用するため、AI向け投資が従来型メモリーの供給を締める面もあります。
したがって当面は、
・AI需要の構造的増加
・HBMの製造難易度
・限られた有力メーカー
・長期供給契約
によって、過去よりも供給過剰になりにくい可能性があります。
それでも、設備投資の成果が本格的に出る2027年以降には警戒が必要です。
投資家が確認すべきなのは、経営者の「需要は強い」という言葉だけではありません。
設備投資額、ビット供給量の増加率、平均販売価格、在庫日数、粗利益率、顧客の設備投資計画を継続的に見る必要があります。
個別銘柄の状況

SKハイニックス(SKHY)
米国での大型上場が最大の話題となりました。
初日は公開価格を約13%上回って終了し、AIメモリー需要に対する投資家の強い期待を示しました。
一方、期待が大きいだけに、今後はHBMの市場シェア、NVIDIAとの関係、設備投資の採算性が厳しく評価されることになります。
マイクロン・テクノロジー(MU)
米国内への投資計画拡大を材料に上昇しました。
ただしSKハイニックスという直接投資できる有力な選択肢が米国市場に登場したことで、これまで米国投資家がメモリー株の代表としてマイクロンへ集中していた状況は変わる可能性があります。
短期的には資金の奪い合いが起きても不思議ではありません。
Meta Platforms(META)
金曜日に約6%上昇し、週間でも大型テクノロジー株の中で際立った動きとなりました。
自社AIチップの製造計画や、AIインフラを収益化する可能性への期待が背景です。
AI投資を収益につなげる道筋が見え始めた企業へ選別的に資金が戻ってきている模様です。
Costco(COST)・PepsiCo(PEP)
Costco(英語では「コスコ」と発音します。念の為)とは月次既存店売上高の伸び鈍化を受けて約4.2%下落しました。
PepsiCoも決算で売上高が市場予想を上回ったものの約3.3%下落しています。
消費関連では、好材料があっても高い期待を超えなければ株価が上昇しにくくなっています。米国消費の底堅さと、企業ごとのバリュエーションは分けて考える必要があります。
今後の見通し
1.第2四半期決算は「高いハードル」との戦い
来週から大手銀行を皮切りに決算発表が本格化します。
市場ではS&P500企業の利益が前年同期比で約24%増加すると予想されています。特にテクノロジー企業への期待が高く、良い決算を出すだけでは不十分です。
売上高、利益率、AI関連投資、今後の見通しのすべてで高い期待を上回る必要があります。
2.CPIとウォーシュ議長の議会証言
来週はCPI、PPI、小売売上高が発表され、ウォーシュFRB議長の議会証言も予定されています。
原油価格の再上昇が一時的なのか、インフレ全体へ波及するのかが焦点です。
インフレが予想以上に強ければ、年内利上げの織り込みが進み、金利に敏感な小型株や高PER銘柄には逆風となります。
3.メモリー・スーパーサイクルの持続性
当面はメモリー不足と価格上昇が続く可能性が高いでしょう。
ただし、「需要が供給を上回る」という予測と、「設備投資が十分な収益を生む」ということは同じではありません。
設備投資が増えるほど、将来の減価償却費と固定費も増加します。需要の伸びが少し鈍化しただけでも、利益率が大きく変動するのが半導体産業です。
長期投資家としては、株価の勢いより、投資回収の確度を見る局面です。
4.Russell2000と市場の広がり
Russell2000は週間で下落し、金曜日にも主要指数で唯一マイナスとなりました。
これは、投資家が景気全体を強気に見ているというより、AI関連の大型成長株へ再び集中していることを示します。
来週以降、銀行決算や消費指標を受けて小型株・金融・工業株が再び上昇するかが、相場の健全性を判断するポイントになります。
5.プライベートクレジットと市場のレバレッジ
プライベートクレジット市場では、北米向けファンドの資金調達が回復する一方、第2四半期の直接融資額は前期比約55%減少しました。
資金は集まっているのに、融資先が減っている状態です。これは貸し手が慎重になっていることに加え、過去の低金利期に組成された融資で信用不安が増えていることを示します。
また、株式市場ではテクノロジー・半導体株へのレバレッジ投資が増え、株式を担保とする短期資金調達コストが上昇しています。
上昇相場が続く間は問題になりません。しかし、混雑した取引が一斉に巻き戻されれば、下落を増幅する可能性があります。
まとめ
今週は、AI・半導体関連株が再び相場の中心に戻りました。
SKハイニックスの米国上場は、AI向けメモリー需要に対する投資家の期待の大きさを象徴する出来事でした。
一方で、Russell2000とNYダウは下落し、前週まで進んでいた市場全体への資金の広がりは一服しています。
メモリー半導体については、AIエージェントや推論需要によって従来とは異なる構造的成長が起きている可能性があります。しかし、設備投資競争が供給過剰を招くという半導体産業の歴史が消えたわけではありません。
「今回は違う」と決めつけるのでもなく、「どうせ過去と同じ」と切り捨てるのでもない。
需要の伸びと供給能力の増加を、冷静に比較し続けることが必要です。
今週、市場から学ぶべきこと
成長産業であることと、いつ買っても良い株であることは同じではありません。
需要が強く、企業が積極的に設備投資を始めたときこそ、その投資が将来の利益を増やすのか、それとも供給過剰を生むのかを考える必要があります。
熱狂の中で最も重要なのは、熱狂に参加しないことではありません。
熱狂を、数字で監視することです。
後記
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